院長雑記

診療所の評価

 20数年前に、とある製薬会社が当医院について、患者さんにアンケートをとったことがありました。その中に、「なぜこの診療所を選んだか?」という項目があったのですが、それに対する一番多い回答は、「近いから」というものでした。開業当初の「近いから」という受診理由は、十分地域医療の役割を果たしていることとして、それなりに納得出来るものだったと思いますが、これは診療内容に対する評価ではないので、診療所としては今一歩だったのではないか思います。それから長い年月が経ちましたが、現在来院される患者さんが、どんな理由で当医院を選んでおられるのか?本当のところは良くわかりません。長く通っている患者さんや、他市へ転居後にも通ってこられる患者さんは、私の診療にある程度満足していらっしゃるものだと、勝手に解釈しております。
 医者と患者さんの関係は、人間対人間のおつき合いですから、当然、ウマが合わない場合も有り得ます。私の診療内容、又は性格に合わないと思われた方は、二度と受診することもないでしょう。つき合っていけると思われた方々が、現在通院しておられるのだと思います。
 こうした診療所の情報は、評判とか口コミとかいった「噂話」のたぐいでしか一般の方は入手出来ないでしょう。それこそ、「試しに受診してみる」といった、特攻隊的な方法でしか確認出来無いのが現状だと思います。当医院を受診してみようと思われる方は、どうぞいらしてみてください。前院長時代から当院は、来るものは拒まず、去る者は追わずです。*(発熱患者さんへの注意点があります。

医師の専門性

医療も競争の時代になってきているようで、真の意味でのプロフェッショナルが強く求められているのもまた事実です。専門性を前面に打ち出している医療機関が多くなっている中で、「何が専門か?」と問われた場合、私は躊躇なく「一般内科」と答えるでしょう。開業医が専門性を高く掲げても、自院で出来ることにはおのずと限界があります。私は自らを、「一般家庭医」、それも軽装備で経験と感に頼ったアナログな医者であると思っております。当院の標榜科目には専門性はありません。その辺の診療は行いますという風にご理解下さい。普通の内科開業医を営むのに、医師免許以外に必要なものはありません。専門的な診療をと強く希望される方は、最初から専門医を標榜する医療機関を受診することをお勧めします。ちなみに私は、開業医には必要ない学会認定専門医を断捨離して、現在はただの内科医です。

私が医者になってから40年が経ちました。医療の進歩は目を見張るものがあり、一人の人間がすべてを把握する事は、もはや不可能になっております。医学の進歩は、得意分野以外は自信がない、いわゆる専門バカを量産する結果となっております。過度に専門性を求める患者側の要望がある事は否めませんが、それもこれもご時勢なのでしょう。医者が足りないという事態は、専門分野以外は診療しないという医者が増えた事が一因となっております。40年前と人体の構造は変わっておりません。高度な治療は設備の整った病院に任せるとして、軽症疾患は開業医で十分対処可能です。開業医は、より高度な治療が必要か否かを判別する門番であり、地域の保健医療を支えるという重要な役割を担っております。そのためにも、開業医も常に知識・技能をアップデートする努力をしております。世の中に、優しいだけの無能な医者は要りません。

現況・診療所の存在意義

開業当初は、頼まれれば専門外の外科的処置も行い、往診や、時間外、休日診療も患者さんのニーズに合わせて、可能な限り行っておりましたが、医者一人の診療所で、全ての患者さんが満足する医療など出来るわけがありません。現状の私の能力では、一般の軽症疾患の診察だけで手一杯の状態であり、市の委託業務である基本健康診査や予防接種が重なる時期には、一般の診療すら、満足な時間がとれなくなる時があります。高齢化社会を迎えて、これからますます増えて来るであろう寝たきり患者などへの在宅医療には、まったく対応出来ない状態です。介護保険が出来て以来、この点に関しては、在宅医療を行う医療機関と、行わない医療機関とが、明確に区別されるようになってきました。現在当院では、通院困難となるような患者さんは、不本意ながらも、在宅医療を行う医療機関に診療をお願いしている状況です。
 厚生労働省は、一般の開業医を在宅の往診医として位置づける事のようです。今後、当院のような零細診療所が地域医療に果たす役割は、かなり限定されたものになる可能性があります。 私は、当院を支持する患者さんが一人でも来院しているうちは、診療所として存在価値があるものと考えております。

受付を中止する理由

 当院の診療システムでは、他ではあまりお目にかからないであろうことが行われています。それは、午前中の診療受付を、診察時間内であってもお断りすることです。その時間は、その日の混雑具合によって変わりますが、混雑時には11時頃になることもあります。
 その理由は、診療を遅くとも12時半頃までには終わらせて、昼食、休憩時間を確保することにあります。開業医としては、非常に傲慢な態度だと思われ、憤慨なさる方もいらっしゃるかもしれませんが、休憩を取ることによって、私と医療スタッフが、午後の時間帯で良い医療の質を確保するためだとご理解下さい。昼休みもなく働き続けて、まともな診察など私には出来ません。ともすれば、法律に抵触しかねないことなのですが、大抵の皆さんは、午後の診察に回って下さっています。

心苦しいこと
 多忙な時間を割いて、往診を行っておられる先生も多いことかと思われますが、私の場合、オーバーワークとなるようなことを我慢して続ければ、体力的、精神的に疲弊することは明白で、医院の存続は困難となるでしょう。残念ながら、私は聖人でもなく、人格者でもありませんので、そこまでの自己犠牲の精神がありません。ただ、「やってあげれば親切なのだが…….。」という思いだけは常に持っております。
 一般家庭医とはいったものの、それはどこまで踏み込んだ医療を行うべきものなのか?やらなければならないものなのか?「出来そうで出来ない」その辺のジレンマがあるところが、自転車操業の悲しい開業医の現実です。

 

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